80代になっても、人の名前や出来事を驚くほどよく覚えている。そんな高齢者を研究するなかで生まれた言葉が、「スーパーエイジャー(SuperAger)」です。
以前この言葉を知ったとき、私は「年齢を重ねても、こんなふうに頭が元気な人がいるんだ」と興味を持ちました。親や祖父母にも、できるだけ自分らしく、いきいきと暮らしてほしいですよね。
ただ、調べ直してみると、スーパーエイジャーは単に元気な高齢者という意味ではなく、記憶力を基準に研究されている人たちだと分かりました。この記事では、2025〜2026年の研究も踏まえて、脳の特徴や日常生活へのヒントを整理します。
スーパーエイジャーとは?80歳以上でも記憶力が若い人
米ノースウエスタン大学の研究では、スーパーエイジャーを80歳以上で、20〜30歳ほど若い人と同程度のエピソード記憶を保っている人と定義しています。エピソード記憶とは、たとえば「昨日何をしたか」「誰とどこで会ったか」といった出来事の記憶のことです(ノースウエスタン大学の研究紹介)。
研究で使われてきた記憶検査では、15個の単語を覚え、時間を置いて思い出してもらいます。80代の一般的な平均が5個程度なのに対し、スーパーエイジャーの選定基準は9個以上。50〜60代の平均的な成績に相当する水準です(2025年の研究総括)。
ここで大切なのは、体力が若い、病気を一度もしたことがない、何でも忘れないという意味ではないこと。元気な高齢者全員がスーパーエイジャーというわけでもありません。
普通の高齢者と何が違う?スーパーエイジャーの脳の特徴
研究が進むにつれ、単に「記憶力がいい」というだけでなく、脳の構造や細胞レベルにも違いが見つかっています。とはいえ、これらは研究グループで観察された特徴であり、すべての人に当てはまるわけではありません。
① 大脳皮質が比較的薄くなりにくい
脳の表面を覆う大脳皮質は、加齢に伴って薄くなる傾向があります。一方、スーパーエイジャーでは、通常の80代に比べて皮質が保たれていることが報告されています。
なかでも、感情や意欲、意思決定などに関係する前部帯状皮質という領域が特徴的だとされています。2025年の大学による研究紹介でも、この領域や脳の神経細胞の違いが取り上げられています(ノースウエスタン大学・2025年)。
以前の記事では「脳が若いから気持ちも若い」と単純に考えたくなる部分もありました。でも、脳の特徴が先なのか、暮らし方が関係するのか、そこまで簡単には言い切れません。
② 脳の加齢による変化の進み方が異なる
ノースウエスタン大学の研究では、スーパーエイジャーの脳が比較的ゆっくりと薄くなることも報告されています。過去の小規模な追跡研究では、約18か月間の大脳皮質の変化に、同年代の比較群との差がみられました(研究プログラム25年の総括)。
ただし、「スーパーエイジャーなら脳は萎縮しない」わけではありません。加齢に伴う変化が見られたうえで、その程度やパターンに違いがあったという話です。
③ 認知症に関係する変化への抵抗力にも注目
2025年の研究総括では、アルツハイマー病に関係するアミロイドやタウなどの蓄積が少ない人と、そうした変化があっても記憶力を比較的保っている人がいることが紹介されています(大学の公式発表)。
つまり、記憶力を保つ仕組みは一つではなさそうです。ただ、スーパーエイジャーなら認知症にならない、という保証ではありません。
④ 2026年の研究では「海馬の神経細胞」にも新しい発見
2026年2月、科学誌『Nature』に、スーパーエイジャーの海馬を調べた研究が発表されました。海馬は、記憶や学習に深く関わる脳の領域です。
研究チームは、亡くなった人から提供された脳の細胞を解析し、スーパーエイジャーに新しい神経細胞の形成に関わる独特の分子的な特徴があることを報告しました(Nature掲載の原著論文/米国NIHの研究解説)。
ただし、スーパーエイジャーとして解析された人は6人で、亡くなった方の脳を比較した研究です。「この生活習慣で新しい神経細胞が増える」「誰でも記憶力を若返らせられる」と証明したものではありません。ここは今後の研究に期待したいところですね。
脳の老化や認知症について、もう少し詳しく知りたい方には、『ハーバードが教える 認知症にならない脳のつくり方』という本もあります。ここで紹介した研究論文そのものとは別の読み物ですが、関心を広げるための一冊として紹介します。なお、書名に「認知症にならない」とあっても、確実に予防できる方法が証明されているという意味ではありません。
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スーパーエイジャーになる秘訣はある?研究で分かっていないこと
ここがいちばん気になるところですが、スーパーエイジャーになるための確実な方法は、現在も分かっていません。
ノースウエスタン大学の研究者によると、スーパーエイジャーの生活習慣は人それぞれ。運動する人もいれば、それほど運動しない人もいて、共通する「これさえすればよい」という習慣は見つかっていません(研究者へのインタビュー)。
「とにかく限界まで運動すればよい」「新しいことに挑戦すれば誰でもスーパーエイジャーになれる」という説明は、現状では行き過ぎです。だからこそ、研究の話と、健康的に暮らすための一般的な工夫は分けて考えたいと思います。
日常生活で参考にしたい5つのこと
スーパーエイジャーへの近道とは言えませんが、認知機能の健康や日々の生活の充実を考えるうえで、参考になる行動はあります。2026年7月に改訂されたWHOの認知機能低下・認知症リスク低減ガイドラインも、生活習慣と健康状態の管理を重視しています(WHOの2026年版ガイドライン)。
1.無理のない範囲で体を動かす
散歩や体操、買い物など、日常のなかで体を動かす機会を持つこと。運動は身体面だけでなく、認知機能の健康を考えるうえでも役立つとされています。
一方、元の記事で触れていた「限界を超える運動に挑戦する」という考え方は、そのままおすすめできません。体調や持病、転倒のリスクに合わせ、無理のない方法を選びたいですね。
2.人とのつながりを大切にする
スーパーエイジャーを調べた研究では、人との交流が活発で、親しい関係を持つ人が多いという傾向も報告されています(ノースウエスタン大学の紹介)。
とはいえ、「社交的でなければダメ」ということではありません。大人数の集まりが苦手なら、家族や友人とゆっくり話したり、気の合う人と趣味を楽しんだり。心地よい距離感で十分だと思います。
人との交流が認知症リスクを減らすかについては、研究が進んでいるものの、因果関係や効果の大きさにはまだ不確実な点があります。
3.興味のあることに、小さく挑戦してみる
元の記事でも印象的だったのが、楽器や外国語、新しい活動への挑戦という話です。私は「難しいことを無理にする」というより、面白そうと思えることを、少しだけ広げてみるのがいいなと感じます。
- 行ったことのない場所まで散歩してみる
- 気になっていた料理を作ってみる
- 好きな音楽に合わせて楽器や歌を楽しむ
- スマホの新しい機能を一つ覚えてみる
できるかどうかを試す過程が楽しいなら、それで十分。脳の若返りを目的にすると、何だか宿題みたいになってしまいますからね。
4.食事や生活習慣病の管理もおろそかにしない
記憶力の話になると、つい脳トレに目が向きます。でも、バランスの取れた食事、禁煙、血圧や糖尿病などの管理といった健康の基本も大切です。
WHOの2026年版ガイドラインでは、認知機能低下や認知症のリスクを考える際、健康行動だけでなく、身体の病気や環境要因を含めた幅広い視点が示されています。特定の食品やサプリメント一つで、スーパーエイジャーになれるわけではありません。
5.「年だから」と可能性を狭めすぎない
年齢を理由にやりたいことをすべて諦めるのも、少しもったいない話です。もちろん体には変化があるので、若い頃と同じように頑張る必要はありません。
「今の自分が楽しく続けられること」を見つける。私は、そんな考え方が長く元気に暮らすうえで大切なのではないかと思います。

「目指せスーパーエイジャー!」と気合いを入れすぎなくても、楽しみながら続けられることが一番かもしれませんね。
日常生活と脳の健康についてさらに読んでみたい方には、『80代でも若返る脳』も本の候補です。タイトルの「若返る」を、誰にでも同じ変化が起きるという意味で受け取らず、自分に合う生活習慣を考える参考として選ぶのがよさそうです。
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親や祖父母に、家族ができることは?
大切な人には、いつまでも元気でいてほしいもの。でも「脳にいいからこれをして」「もっと外に出て」と言われ続けたら、ちょっと疲れてしまうかもしれません。
たとえば、好きな話を聞く、一緒に出かける機会を作る、本人が興味を持っていることを応援する。何かをやらせるより、選べる機会を増やす方が、自然で気持ちのよいやりとりになりそうです。
記憶力を競う必要もありません。スーパーエイジャーであるかどうかと、その人の価値や暮らしの豊かさは別の話です。
よくある疑問
スーパーエイジャーは生まれつき?努力でなれる?
遺伝、脳の構造、生活習慣など複数の要因が考えられていますが、どれがどの程度影響するか、まだ解明されていません。努力すれば必ずなれるとも、生まれつきだけで決まるとも言えません。
スーパーエイジャーなら認知症にならない?
いいえ。研究時点で優れた記憶力を示していても、将来の認知症を完全に防げると分かったわけではありません。
脳トレやサプリメントでスーパーエイジャーになれる?
現時点で、特定の脳トレ教材やサプリメントによってスーパーエイジャーになれることを示す十分な根拠はありません。健康情報や商品広告の「若返る」「確実に防ぐ」といった表現には注意したいところです。
まとめ|スーパーエイジャー研究から学べるのは、年齢の可能性
スーパーエイジャーは、80歳以上でも若い世代に匹敵する記憶力を持つ人たちのこと。脳の構造に加え、2026年には海馬の細胞レベルでも新しい発見がありました。
一方で、誰でもスーパーエイジャーになれる方法が見つかったわけではありません。だからこそ、数字や肩書きにこだわりすぎず、健康状態に合った運動、人とのつながり、好きなことへの挑戦を大切にしたいですね。
年齢を重ねることは、できないことが増えるだけではない。そんな前向きな視点をくれるのが、この研究のいちばん面白いところだと私は思います。
参考資料・研究
- ノースウエスタン大学:SuperAging研究の概要
- ノースウエスタン大学:25年間の研究成果(2025年8月)
- Alzheimer’s & Dementia:SuperAging研究25年間の論文(2025年)
- Nature:成人・高齢者とスーパーエイジャーの海馬研究(2026年2月)
- 米国NIH:2026年の海馬研究解説
- WHO:認知機能低下・認知症リスク低減ガイドライン第2版(2026年)
※この記事は公開された研究と公的資料をもとにした一般的な情報です。健康状態や症状について心配がある場合は、医療専門職に相談してください。研究の知見は今後更新される可能性があります。








