日本語の授業で、タブレットやデジタル教材はどう使えるのでしょうか。以前、日本語を教える仕事をしていた私は、iPadを授業に持ち込んで、あれこれ試していた時期がありました。
当時は便利な使い方を見つけるだけでうれしかったのですが、後から振り返ると、「教材を画面に映すこと」と「学習者の活動を広げること」は別だったなと思います。
今回は、私が実際に試したICT活用例と、今なら取り入れたい授業のアイデアを紹介します。2026年に使える公式教材も確認しました。過去の実体験と、現在の教材情報・今後の提案は分けてお伝えします。
日本語教育でICTを使うとは?
ICTは「Information and Communication Technology(情報通信技術)」の略。パソコン、タブレット、インターネットなどを利用して、学びやコミュニケーションを支える仕組みを指します。
日本語の授業に置き換えるなら、写真や動画を見せるだけでなく、学習者自身が日本語で調べたり、考えをまとめたり、誰かに伝えたりする場面も含まれます。
ただし、ICTを使えば必ず授業がよくなるわけではありません。大切なのは、「この活動で何ができるようになってほしいか」を先に考えることだと思います。
以前の日本語授業で、私がiPadをどう使っていたか
私が日本語学校で教えていたころ、教室では紙の教材や絵カードが中心でした。テレビを使える教室もありましたが、タブレットを授業に取り入れる先生は身近には多くありませんでした。
そこで私が試していたのが、iPadを教材入れのように使う方法です。今では珍しくないかもしれませんが、当時はそれだけで準備がずいぶん楽になったんですよね。
① 写真・絵カード・動画をまとめて見せる
文型や単語を導入するとき、紙の絵カードの代わりに写真を表示したり、短い動画で場面を示したりしていました。テレビにつないで映すこともあれば、少人数のレッスンで端末を一緒にのぞき込むことも。
「見る→気づく→日本語で言ってみる」という流れを作りやすく、写真の差し替えも簡単でした。大量のカードを持ち歩かなくていいのも、ありがたいところです。
② 聴解練習で、聞きたい部分を繰り返す
音声を細かく止めたり、聞き直したい箇所に戻ったりできるアプリも使っていました。聞き取れなかった部分だけを確認できるので、一律に最初から再生し直さずに済みます。
漢字練習アプリを、自習の選択肢として紹介したこともありました。ただ、アプリが合うかどうかは学習者によって違います。
③ Keynoteで授業の流れを組み立てる
教材作りに使っていたのは、Appleのプレゼンテーションアプリ「Keynote(キーノート)」です。写真や文字を組み合わせ、スライドを進めながら導入や練習を行っていました。
出張レッスンでも、端末に資料を入れておけば大きな教材を抱えずに済みます。私にとって最初のICTのメリットは、何より準備と持ち運びが楽になることでした。
便利だった。でも、振り返ると「教材のデジタル化」が中心だった
ここは少し反省しているところです。当時の私は、写真をきれいに映すこと、授業でスムーズに操作できることにかなり力を入れていました。
もちろん、それも授業を支える大事な工夫です。ただ、画面を操作していたのはほとんど私。学習者がICTを使って、自分の言葉で何かを作る・伝える活動は、まだ十分ではありませんでした。

便利なスライドができると、それだけでちょっと満足してしまうんですよね。肝心なのは、画面の出来栄えではなく授業の中身でした。
だから今、日本語教育でICTを考えるなら、「先生が何を見せるか」だけでなく、「学習者が日本語で何をできるようになるか」を軸にしたいと思います。
ICTを授業に取り入れたい先生には、『デジタルによりそう言語教員:日本語教員のためのデジタルリテラシー』という参考書もあります。ツールの操作だけではなく、授業でのデジタル活用を考えるための一冊として候補にしてみてください。なお、こちらは私が実際に使用した教材ではありません。
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今なら試してみたいICT活用アイデア3つ
ここからは当時の実践談ではなく、元日本語教師としての提案です。端末や通信環境、学習者の年齢・日本語レベルに合わせて調整する前提で考えてみました。
① 写真を使って「わたしの町」を紹介する
学習者が自分で撮った写真を使って、住んでいる町やお気に入りの場所を短い日本語で紹介する活動です。Googleスライドなどに写真と一言コメントをまとめ、クラスで発表する形なら、初級でも工夫できそうです。
発表後に「どうしてそこが好きですか?」と質問し合えば、スライド作成だけで終わらず、会話の練習にもつながります。
② 音声を録音して、前の自分と聞き比べる
自己紹介や短いスピーチを録音し、少し時間を置いて聞き比べる方法。話す速さや言い方の変化に自分で気づけるかもしれません。
全員の前で話すのが苦手な人も、まずは録音なら取り組みやすい場合があります。ただし、音声の保存先や共有範囲は確認が必要です。
③ 身近な生活場面を調べ、ロールプレイにつなげる
「病院の予約をする」「職場で休みを相談する」など、学習目的に合わせた場面を選びます。公式の動画教材で表現を確認した後、ペアで役割を交代しながら練習するのも面白そうです。
検索して答えを読むだけではなく、見つけた表現を自分の会話に使ってみるところまでつなげたいですね。
授業での活動をもう少し具体的に考えたい方には、『改訂新版 オンライン授業で使える日本語活動集90[電子版付]』も参考書の候補です。オンライン授業で使える活動例を探せる本として紹介します。こちらも、私の実体験で使用した本ではありません。
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2026年に確認できる日本語学習の公式教材・サービス
昔は教材を一から用意することが多かったのですが、現在は国際交流基金(JF)によるオンライン教材も充実しています。教える側にも、学ぶ側にも選択肢があります。
| 教材・サービス | 何ができる? |
|---|---|
| いろどり 生活の日本語 | 生活場面の日本語を学べる教材。PDFや音声を無料で利用でき、2026年3月に「初中級(A2/B1)」が追加 |
| いろどり日本語オンラインコース | 動画や練習問題などを使い、スマホ・パソコン・タブレットで学べるオンラインコース |
| JFにほんごeラーニング みなと | レベルや学習分野からオンラインコースを選べる。無料・有料の講座がある |
| ひきだすにほんご | 映像を使った授業の実践例や、教師向けの活用アイデアを確認できる |
特に『いろどり』は、教材を印刷して使うことも、スマートフォンなどで表示することもできます。2026年には「初中級(A2/B1)」が加わり、初級の先に進みたい学習者にも選択肢が広がりました。
また、『いろどり』の公式サイトには教材の使い方や利用条件も掲載されています。教材をコピー・配布・加工するときは、公式のFAQなどで条件を確認しておきましょう。
これらは私が昔の授業で使った教材ではありません。今回、2026年10月に公開情報を確認して追加した参考情報です。
ICT活用で気をつけたいこと
手軽になったとはいえ、端末があるだけで解決するわけではありません。授業で使うなら、次の点は先に考えておきたいところです。
- 通信環境と端末の差:学習者全員が同じ端末・回線を使えるとは限らない。紙や口頭でできる代替案も用意する
- 写真・音声・個人情報:顔写真、録音、SNS投稿は、本人の同意や学校のルールを確認する。公開投稿を前提にしない
- 教材の著作権:画像・動画・教材を自由に転載できるとは限らない。利用規約と権利関係を確認する
- 操作の負担:アプリの使い方を覚えることが目的にならないよう、機能は必要最小限にする
学習者にとって負担が大きければ、紙のカードや口頭練習の方がいい場合もあります。「デジタルだから正解」ではなく、目的に合う手段を選ぶことが大切だと思います。
まとめ|ICTは教材を楽にするだけでなく、学び方を広げる道具
以前の私がiPadを持ち込んだ理由は、教材をまとめて持ち歩けて、授業準備が楽になるからでした。その便利さは今でも大きなメリットだと思います。
でも、今振り返って一番おもしろいと感じるのは、学習者が自分で調べ、まとめ、誰かに伝える活動を作れること。日本語を「教わる」時間から、日本語を「使う」時間へ。 ICTには、そんな授業の可能性があると感じています。
私は今、当時のように教室で授業をしているわけではありません。それでも、公式教材や先生方の実践例を見ていると、「もし今教えるなら何を試そう?」と、ちょっと考えたくなるんですよね。
参考にした公式情報
- 国際交流基金『いろどり 生活の日本語』公式サイト
- 国際交流基金:『いろどり』初中級(A2/B1)の追加(2026年6月)
- 国際交流基金『いろどり日本語オンラインコース』
- 国際交流基金『JFにほんごeラーニング みなと』
- 国際交流基金『ひきだすにほんご』実践共有
※個人的な授業経験は過去の記録です。現在の教材・サービス情報は2026年10月17日時点で確認した内容をもとに記載しています。具体的な教材の利用条件や提供範囲は公式サイトでご確認ください。

